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英国人が待ち焦がれる初夏の味覚の一つは、 アスパラガスに続いてニューポテトである。 そのものずばり新じゃがのことで、皮のまま茹でてバターをつけたり、 マヨネーズやビネグレットで和えて食べる。 サラダに使うことが多いので、サラダポテトと呼ぶこともある。 その新じゃがの中でも、最も美味とされるのが、 ジャージー島で栽培される「ジャージー・ロイヤル」と呼ばれる新じゃがだ。 気候が温暖で、土が肥沃でしかも水はけが良いので、ポテトや花の栽培に最適だとされる。 そして、ジャージー・ロイヤルは波打ち際に打ち寄せられる海草を肥料として使っている のも、その特徴になっている。 島の海岸に近い畑は急斜面のため、機械が入らないので、 植え付けから収穫まですべて手仕事になる。 そのためもあって、他の新じゃがに比べると数倍の値段になるが、 それでもジャージー・ロイヤルが店先に並ぶようになると、 人々は初夏の訪れを感じ、心浮き立ってこのイモを買い求めるのである。 形はやや細長く小さいこのポテトは、いわゆるwaxy potatoであるが、 ナッティで大地の香りのする新じゃがだ。 毎年11月に海草 (土地の言葉でVraicと呼ばれる海草)を漉き込んで 土の準備が始まり、 1月から4月に掛けて植えつけられたタネイモは 早くはイースターの頃から出回り始めるが、 5月に最盛期を迎え、収穫は7月まで続く。 収穫されたポテトはすぐにサイズ分けをされて輸送され、翌日には英国に届く。 早い時には、収穫から24時間以内に店頭に並ぶと言う。 現在20軒の農家がジャージー・ロイヤルを栽培しているらしいが、 ピーク時には毎日1500トンものポテトが出荷されると言う。 この島で栽培される「ジャージー・ロイヤル」は、そのユニークな特徴から、 The Protected Designation of Origin(PDO)として、EUから認められている。 つまり、ジャージー島以外の場所で同じポテトを栽培しても、 'Jersey Royals'と言う名称は使えないと言うことになる。 それにしても、なぜただのイモに'Jersey Royal'という、 大層な言葉が入る名前が付けられているかというと、 元々このポテトは 'Jersey Fluke' と呼ばれていたらしいのだが、 時は大英帝国がその頂点にあったビクトリア時代のことであるから、 極上のものはすべて女王に献上するとの意味で「ロイヤル」が付いて 'Royal Jersey Fluke'になり、最終的に 'Jersey Royal'に落ち着いた と言うことのようだ。 (画像は、3月17日の今年初収穫の日の Jersey Evening Postのニュースから) 私自身は、もっとあとに収穫されるホクホクポテトの方が好みなのだけれど、 今の季節にはジャージー・ロイヤルを食べて初夏の気分を味わうことにしている。 [追記] 実を言うと、 'Jersey Royals'と同じ品種のタネイモは、 簡単にオンラインなどで手に入れることができる。 'International Kidney'と言う名称で売られているタネイモがそれである。 前述のような理由で'Jersey Royal'と言う名はジャージー島で栽培する場合にのみ使える名称なので、 'International Kidney'と呼ばれているだけのことである。 では、'International Kidney'に海草を与えて育てると、 'Jersey Royals'と同じ味になるかというと、そうは行かない。 温暖な気候、太陽を最大限に受ける南向きの急斜面で、豊かな土などの好条件が重ならなければ、 'Jersey Royals'の味にはならないということなのだろう。
by lapisland
| 2015-06-14 04:23
| 英国食事情
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